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主席研究員 西宮 幸一
公共政策の対象分野には、地域住民の理解と合意がなければ実効性の上がらないものが少なくありません。なかでも、廃棄物をはじめとする環境問題は、その典型例といえます。 とはいえ、環境問題では住民の間で利害の対立が起るケースも見られます。
そこで、対立を回避するとともに、住民―行政の連携を引き出し、実効性ある環境政策の展開を図る必要があります。
こういった観点から、さまざまな利害の異なる関係者(=ステークホルダー)間での合意形成を進めるコミュニケーション技術に注目が集まっています。
自治体や公共機関の担当者にとって、情報の発信とは、多くの場合あくまで内部で決定済みの事業方針・事業計画に関する説得活動の一環でした。
しかし、住民に提示される政策や施設計画が、最善のものとは限りません。また、多様な住民の意見に応える意味から、政策や計画を決定していく段階にも住民を巻き込むという、協働の意思決定プロセスを導入することが重要です。
そのためのコミュニケーション技術に、「パブリック・インボルブメント(publicinvolvement=PI)」があります。PIは、公共政策の形成に向け、多様な意見を吸い上げるために意見表明の機会を提供する取り組みを指します。
PIは、単発の取り組みとしてではなく、政策や計画の検討から合意形成、そして執行・実施に至るまでの一連の戦略と捉えることができます。 行政がPI戦略を進める際は、以下の点での配慮が必要です。
情報公開が不徹底と住民に認知されてしまうと、行政と住民との対立は深まります。したがって、情報公開は十分に行われなければなりませんが、住民の知りたい、あるいは懸念しているテーマに関するものでなければ、却って住民の不信を増長します。 住民がどんな点に関心を持っているか、情報ニーズを把握することが大切です。
PIは、行政と住民の協働のしくみでもあり、一連のプロセスを通じてよりよい政策や事業方針を形成することを含意するものです。そこで、住民のなかでも政策的な提言を行政に対して行ったり、行政と協働の経験のある、地域活動のキーパーソンと呼べる住民に、積極的にPIのプロセスへ関与してもらうことが必要です。
こうした人たちに早い段階からの関与を得ることで、他の住民の意見を広く集めやすくするほか、住民から住民への情報発信ルートづくりにもなります。
専門的知識を持つ学識者やNPOが、さまざまな利害から離れた第三者としてPIプロセスに参加することは、検討対象の政策・事業への客観的な評価、科学的・専門的知見に基づく客観情報の提供を可能とします。 そして、行政に「取り込まれる」ことへの懸念から行政との協働そのものを警戒する住民からも建設的提言を促す前提条件としても機能し、対立の解消に作用します。
住民からの意見聴取は、各地でアンケートやパブリックコメント、説明会などにより行われています。しかしこれらの方法は、いずれも住民から行政への一方的な意見発表の方法です。住民は、「自分の意見がどう反映されたか」、つまり応答性を重視します。 もちろん、アンケート等は幅広い住民の意向を探るという点では有効ですが、行政と住民、さらには第三者がよりダイレクトに意見交換しあう機会を合わせて設定すれば、住民と行政の建設的な協働関係づくりにつながります。
PIプロセスを通じてまとめられた政策や計画には、住民もそこに盛り込まれた理念や対策等に対する共有感を持ち、その実践を強く求めます。盛り込まれた内容がどれだけ実践されたか、点検・評価する体制についてもPIの対象課題とすることで、住民は行政の誠意を感じ、行政への協力姿勢も生まれやすくなります。
日本に「パブリック・インボルブメント」という語がアメリカなどから輸入されたのは比較的最近のことですが、私どもでは以前から、PIを先取りした自治体の戦略について、コーディネートやサポートを行ってきました。
たとえば、70回以上に及ぶ委員会や駅頭での「市民100人スピーチ」などを企画運営し、市内中心部でのリサイクルセンター施設整備につなげた狛江市の取り組み、産業廃棄物の処分場整備の当初計画に住民合意が得られなかったことから、多様な利害関係者が集まって施設の是非を含め白紙から検討し、厳しい減量目標設定と施設整備の必要性確認に至った長野県「中信地区・廃棄物処理施設検討委員会」の事務局サポート、住民が行うべき環境配慮行動を住民自身が計画化していった「台東区環境配慮行動指針」策定でのサポート業務などです。
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