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資源ごみ持ち去り問題と自治体の対応

代表取締役所長  山本 耕平

1.資源ごみ持ち去り問題とは何か

 資源ごみの持ち去りとは、ごみの集積所に分別排出された資源物を、許可なく無断で持ち去る行為のことで、この行為が組織的かつ大規模に行われるようになり大きな問題となっている。

 もともと古紙等の回収は集団回収やチリ紙交換など民間の事業として行われてきたが、再生資源価格の低落によって一部品目が「逆有償」(資源を売るのではなく、逆に問屋やメーカー等に費用を支払うこと)になったために、資源となるべきものがごみとして大量に排出されるという状況になった。そのため、ごみ減量の観点から行政が資源回収(行政回収)に乗り出したところ、いつのまにか価格が上昇し、「資源ごみ」は再び「有価物」となったためにこれを持ち去るものが出てきた、というわけである。

 持ち去り行為を、ホームレスや職のない人たちの生活の糧だとして擁護する意見もあるが、問題となっているのはトラックで古紙を大量に持ち去る「持ち去りビジネス」が横行していることだ。大手製紙原料問屋で構成する関東製紙原料直納商工組合(関東商組)は、2012年11月に、行政の氏名公表制度で明らかとなった持ち去り関与組合員の除名処分を行っている。このような大手の問屋が関与するケースもある。大手の業者が貧困者を利用して古紙を集めさせる行為が果たして擁護されるべきなのかどうか。持ち去り問題は格差社会や貧困者の問題にまで関係している。

 持ち去り行為の背景には、古紙等の価格の上昇がある。一時は低落していた再生資源価格は2005年頃から中国の経済成長を背景として高騰したため、持ち去り行為は全国に広がった。2008年9月のリーマンショックで一時価格は急落したものの、近年は再び上昇しており、それにともなって町内会等が実施している集団回収にまで持ち去りの被害が出ている。

 自治体にとっては、持ち去り行為は公共事業の信頼性や行政の信用にかかわる問題であると同時に、経済的な損失も大きい。

 東京都内のリサイクル事業者の協同組合等で構成する(社)東京都リサイクル事業協会(東リ協会)の推計によると、2009年度の都内の資源(新聞古紙)の持ち去り量は、4万2675トン、持ち去り率は、27・3%、区部だけでは34.4%が持ち去られたと推計している。(表-1)

 自治体が税金を使って回収する量が減れば、それだけ経費が節減できるといった無責任な意見もあるが、自治体は持ち去りを前提として事業の計画を立てているわけではないので、本来必要な回収体制を準備する。それが結果的に無駄になったり、逆に集積所が荒らされることで回収の手間やコストが増えるといった事態も生じている。東リ協会の試算では、こうした無駄になった回収コストと売却益の損失の合計が約15億円になると推計している。

表1

表1 都内の資源(新聞古紙)持ち去り量と被害額の推計(平成21年度):(社)東京都リサイクル事業協会資料

2.持ち去り禁止条例について


 (1)条例の概要

 持ち去り行為を窃盗罪などの刑法犯として検挙することはなかなか難しい。集積所に出された資源物は廃棄する目的で出されたとみなされ、たとえ財物としての価値があるとしても、これを持ち去る行為がただちに法律に違反するといえるのか、法律の解釈も分かれるところである。そこで持ち去り行為を規制するために、自治体の法律として持ち去り条例を定めるという方法が広がってきた。

 持ち去り禁止条例と呼ばれているものの、単独の条例ではなく廃棄物処理に関する条例の中に持ち去り禁止の規定を設けているものが一般的であるが、ここでは持ち去り行為の規制についての規定を持つ条例を持ち去り禁止条例ということにする。

 持去り禁止条例には大きく二つのタイプがある。第一のタイプは、集積所に排出された古紙等の所有権が行政にあることを明確にして、持ち去り行為が窃盗罪の構成要件を充足させるようにしたものである。第二のタイプは、行政が指定した者以外が集積所からの資源物の回収を禁止するとしたもの。命令に違反した場合は秩序罰としての過料を科すと規定している例が多いが、刑罰としての罰金を定めている例もある。また所有権の明確化と禁止命令の両方の規定を設けている例もある *注1) 。

 スチール缶リサイクル協会の調査によると、全国では2010年度時点で167の自治体が持ち去り禁止条例を制定しておりという結果となっている *注2) 。(表-2)およそ4分の1の自治体が持ち去り禁止条例を制定しているということは、持ち去り問題は全国的にかなり深刻な問題になってきているということだろう。

 経済産業省でも、行政回収における古紙の持ち去り問題は紙リサイクルシステムを阻害する要因と位置づけている *注3) 。


 (2)条例に対する最高裁判決

 条例違反行為は告発され、裁判で争われたケースもある。その中で、世田谷区の清掃・リサイクル条例違反の事件は最高裁まで争われた。世田谷区の条例は、上記の第二のタイプに類型化されるもので、命令違反者を区が告発し、送検、起訴、最終的には裁判により罰金刑が確定するという仕組みである。禁止命令の違反者には20万円以下の罰金が科せられる。

 命令違反で告発された業者に対して、一審の簡裁では禁止される場所(集積所)が特定されていないため、犯罪構成要件の特定は十分ではないとして被告人を無罪とした。これに対して控訴審では、集積所の特定はできるとし、また持ち去り行為そのものを処罰するのではなく命令違反を処罰の対象にしているので犯罪構成要件が不明確とはいえないとして有罪とした。2008年に出された最高裁の判決は、控訴審を踏襲し集積所は看板等で住民が周知していることのだから、そこから持ち去ってはいけないという規定に問題はなく有罪であるという判決が下された *注4) 。

 持ち去り行為は慣例的に認められてきたものだという主張や、持ち去った対象物の価値は低いのだから罰則を適用するにはあたらない等の意見もあるが、世田谷区の事例で持ち去り禁止条例に対して一定の方向性が示されたものといえ、自治体の条例制定を後押しする形になった。その後2012年には杉並区の条例違反で告発された業者が最高裁まで上告し、罰金15万円が確定している。

表2

表2 全国の持ち去り対策の実施状況(2010年度)資料:スチール缶の資源化に関するアンケート調査(スチール缶リサイクル協会)


 (3)強化される条例

 持ち去り禁止条例には罰則が設けられていない条例も多い。指導、勧告、氏名公表などで持ち去り行為を抑制しようというねらいだが、2009年11月に東京都や区市町村、製紙メーカー、リサイクル業界などで立ち上げた「古紙持ち去り問題対策検討協議会」(以下、協議会)は、2011年6月に罰則付きの条例を制定すること提言している。持ち去り業者は条例のない自治体で持ち去ることが多いため、罰則付きの持ち去り禁止条例を制定することが望ましいとし、条例案については文書等により地方検察庁検事に協議を行うこととしている *注5) 。

 罰則の適用は手続きも煩雑で時間がかかることから、足立区ではたばこのポイ捨て対策と同じように、指導や警告なしに現場を確認次第2000円の過料を科す制度を導入している。持ち去り行為によって得られる利益と比べて過料の額が安いが、現認されたらその場で罰金を払わされるので、回収人としては仕事がやりにくくなるということで抑止効果を期待した規定だ。

 東リ協会の調べによると、都内23区と多摩地域30市町村のうち、2012年10月時点で条例を制定している市町村は29団体で、区部が17、多摩地域が12である。全体の内、罰則を規定しているものが20団体で、3分の2が罰則を導入している。(図-1)

図1

図1 東京都特別区・多摩地域の持ち去り禁止条例の制定状況 資料:(社)東京都リサイクル事業協会


 (4)集団回収の持ち去り問題

 前述のように、持ち去り行為は集団回収にまで及ぶようになったため、横浜市では2012年5月に条例を改正し、集団回収の持ち去り規制を盛り込むとともに罰則等の適用をしやすくした。改正前の条例では「一般廃棄物処理計画に従って家庭から排出された廃棄物の所有権は、横浜市に帰属するものとする」と規定し、家庭から排出された廃棄物の所有権を市にあることを明確にしたうえで、「市長が指定する事業者以外の者は、前条の廃棄物を持ち去ってはならない」としていたが、改正条例では「市長又は市長が指定する事業者以外の者は、一般廃棄物処理計画に従って家庭から排出された廃棄物を持ち去ってはならない」と直接的な規定に変更した。

 また立ち入り調査の範囲を「土地又は建物」から、車両やその他の場所まで拡大した。持ち去り行為を見つけた場合に「当該廃棄物の処理に関し必要な報告を求める」という規定を改正し、「質問をし、報告を求め、又は指示をすることができる」とした。

 さらに集団回収登録団体が実施する資源回収のものを持ち去ることを禁止する規定を設けた。集団回収は、市民団体とリサイクル業者の「取引」であり、これを無断で持ち去ることは明らかに窃盗罪に該当するが、市が直接的に指導や規制に乗り出す手段として条例に盛り込んだものである。

 罰則も強化され、「命令に違反した者は、20万円以下の罰金に処する」とした。過料ではなく刑事罰とすることで、罰則の実効性を高める意図があるという。さらに持ち去り行為がビジネス化していることに鑑み、末端の回収人だけでなく雇用者に対する処罰ができるように両罰規定を設けた。

 ちなみに横浜市は古紙の行政回収を2013年度までに段階的に集団回収に以降することとしており、条例改正の背景にはこのような事情もある。

3.持ち去り問題に今後どう対応していくべきか


 (1)条例の効果と限界

 条例が効果をあげるためには、具体的な取り締まりが必要である。世田谷区では最高裁判決のあとも持ち去り行為は続いており、2010年の警告件数は168件、禁止命令は18件、うち告発が2件となっている。パトロールを振り切って無謀な逃走を図るなど、悪質さが増しているという。

 パトロール体制を強化している杉並区では。2010年度で禁止命令が131件、告発が6件となっている。杉並区のケースも最高裁まで上告されたが、罰金刑が確定している。(表-3)

 いずれにしても、条例は制定しただけでは効力は弱い。条例によって規制や罰則を強化したとしても、それを取り締まり、立件する実務上の負担は大きい。杉並区では3人の専従でパトロールを行っていたこともあるが、持ち去り対策に要するコストの増大も問題である。被害額と比較して多額の経費をかけることは、市民の理解が得にくい。一方では、持ち去り行為を犯罪とみなして地域の安全・安心上のリスクと考えれば、相応のコストをかけることも必要だという考え方もある。

 条例は、持ち去り行為が不法行為であることを市民に明確に示したという点で一定の抑止効果は期待できるが、具体的な手段をもって規制権限を発動しなければ有効に機能しない。条例だけでは限界があることを前提に、対策を講じていく必要がある。

表3

表3 杉並区・世田谷区の取り締まり状況 資料:(社)東京都リサイクル事業協会


 (2)車両登録制度

 ところで持ち去り問題でもっとも被害を受けているのは、当のリサイクル業者である。行政回収の仕事はリサイクル業者に委託されていることが多く、持ち去りによって回収量が減った分は、そのまま彼らの経済的損失につながる。また持ち去り業者のために正当な業務に対しても厳しい目が向けられる。

 (社)東京都リサイクル事業協会では、平成24年10月から「古紙持ち去り根絶宣言車両識別(ステッカー)制度」を発足させ、首都圏の一都六県で正規業者の車両を登録し、ステッカーを貼付している。ステッカーを貼付した車両が正規の組合等に所属しているかどうか、すぐに検索できる仕組みだ。

 そもそも古紙回収業は、廃棄物処理法では専ら再生利用の目的となる廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者は廃棄物収集運搬業の許可は不要とされているため、誰でも車一台で回収できる。そのためアルバイト感覚で持ち去り行為を行うものも少なくない。

 登録制度は協同組合などに所属するインサイダーの業者と、アルバイトや悪質業者のアウトサイダーを区別する仕組みである。

 登録は厳しい審査を行い、万一持ち去り行為を行った車両はただちに登録が抹消され、ステッカーの返却と登録抹消車両の情報が関係者に伝わることになっている。

 ただ、これらの制度はほとんど持ち去り行為をしていないインサイダー業者を縛るものであって、これによって持ち去り業者が減るわけではない。


 (3)関係者の連携による取り組み

 協議会では古紙流通の段階で持ち去り古紙を排除する取組を強化するとし、製紙メーカーにはコンプライアンスの遵守を求め、不適正行為を行う問屋からの古紙買い入れの中止や、回収業界と問屋業界の優良業者認定制度の活用などが提案されている。業界が自主的にコンプライアンス遵守の宣誓を行うなど、古紙業界挙げて取り組んでいくべきであるとしている。また持ち去り行為を行っている業者の情報を関係者で共有すること、警察との連携を密にすることなどが提案されている。

 このように古紙業界が回収・流通・メーカー・輸出業者まで、業界挙げて協力体制を組み、持ち去り対策を講じるというのは、それだけ問題が深刻であることを物語っている。製紙メーカーでは再生紙偽装問題 *注6) など、古紙リサイクルに対する消費者の不信を招く行為があったことなども背景にあり、古紙業界全体としてリサイクルの透明性やコンプライアンスが重要な問題になっている。


 (4)今後の課題

 行政回収そのものを見直す動きもある。持ち去り行為が頻発するのは古紙等の価格が上昇したからであり、民間事業として成り立つのであれば地域団体のイニシアチブで行われている集団回収に統合しようというものだ。

 集団回収は実施団体と回収業者との間で古紙の売買が行われるわけであるから、これを持ち去ることは直ちに窃盗罪に問うことができる(警察が取り上げるかどうかは別だが)。また地域主導で行われるため、集積所への監視や契約外の業者の闖入を阻止しやすい。

 行政の思惑としてはコスト削減につながる。集団回収は実施団体に一定の補助金、奨励金を交付して実施しているが、行政回収と比べてコストは圧倒的に安い。しかし行政回収の対象には採算に合いにくい古紙や資源物も含まれており、集団回収がすべてを代替できるかは疑問が残るところだ。

 日本はかなり高度なリサイクルシステムを構築している。リサイクルルートは行政回収、集団回収以外にも新聞販売店の回収やスーパー等の店頭回収など多様なシステムが併存している。これらの仕組みは、企業の社会的責任、市民の環境に対する意識、もったいないという価値観、古紙やボロをリサイクルしてきた昔からの習慣など様々な要因が組み合わさって、関係する主体の協働で成り立っている。

 換言すれば、持ち去り行為を防止するためには協働関係をますます拡充していくことが重要である。行政回収を集団回収に統合するにせよ、行政の関与や住民、リサイクル事業者との協働を拡充していく方向でなければならない。持ち去り対策は行政回収を縮小すればよいという問題ではないということを付言しておきたい。


  • 注1) 持ち去り禁止条例の詳しい論考については拙論を参照されたい。(山本耕平「古紙持ち去り禁止条例」自治体法務研究No.3 2005冬所収)
  • 注2) スチール缶の資源化に関するアンケート調査(スチール缶リサイクル協会)
  • 注3)「紙リサイクルシステムの強化に関する調査」(2012年3月 経済産業省)
  • 注4)「世田谷区清掃・リサイクル条例事件」(垣見隆禎、自治総研通巻411号 2013年1月号)
  • 注5)「古紙持ち去り問題根絶に向けた取組」(平成 23 年 6 月 古紙持ち去り問題対策検討協議会)
  • 注6) 2008年1月にTBSが再生はがきの古紙配合率の偽装について報道したことがきっかけとなり、製紙メーカー全体でコピー用紙などの古紙配合率の偽装が行われていたことが表面化した問題。