トップ » レポート・出版物 トップ » 研究員レポート・特別報告 » 「電子自治体」化の推進と地理情報システム(GIS) −現状と問題点−
研究員 高田 洋義
1999年に計画されたミレニアムプロジェクトによってスタートした日本の電子政府・電子自治体化は、2001年のe-Japan戦略 、e-Japan重点計画 によってその計画が加速され、2003年の実現に向けて着々と進行しています。
e-Japan戦略では新しいIT国家基盤の整備として以下4つの重点政策分野を提示しています。
重点政策分野のキーワードとして、1)にはまだ耳慣れない「地理情報システム(GIS)」という言葉が登場し、「高度道路交通システム(ITS)」等と連携した高度な移動体通信サービスを普及・促進する、と謳われています。
本稿では「地理情報システム(GIS)」というキーワードについて繙き、現状での問題点や今後への提案をしたいと思います。
地理情報システム(GIS)とは、Geographic Information Systemの略で、広義には 「実世界を空間的に管理することにより、より合理的な意思決定を行おうとするアプローチ全般」 を意味しますが、狭義には、「空間情報を作成、加工、管理、分析、表現、共有するための情報テクノロジー」を意味します。
ここでいう空間情報とは、身近な空間や場所に対する意味を持った情報すべてを指しますが、そういった「空間情報」は今までの紙ベースでの「地図」による共有から、デジタルベースの「データ」としての共有によって、更に昨今の社会インフラのIT化促進とパソコンの普及にも支えられ、「空間情報=地理情報(データ)」は単なる利便性だけでなく視覚的な「情報」として直感的にとらえやすく、より効果的に問題点や現状を明らかにすることが可能になります。
また、こうした空間情報処理技術は専ら行政のみが利用するためのシステムでなく、現在では広く一般社会や研究機関、市民団体や個人についても日常的に利用できるような裾野が広がりつつあります。
まだ漠然とした概念である「地理情報システム(GIS)」には、主に以下4つの利点が挙げられます。
地理情報システム(GIS)が扱うデータの構造は、基本的には下図のようなものを指します。従来その多くは紙ベースの地図/台帳といったものとして全く別の媒体で構成されており、相互に連関するしくみを持たないものが殆どでした。

GISとはこれらの情報を「空間情報(相互に地理的座標の一致関係をもつデータ群)」をキーに統合し、換言するならこれらを電子地図ベースで統合・運用するしくみである、といえます。
既存の紙ベース主体の情報群を、前述した「位置をもった」データとして電子化し、同時に地図データと統合することにより、属性データを空間・距離の概念で表示・集計・分析が可能となります。以下それぞれの機能を実際の運用イメージとともに概説します。
空間情報データベースの構築(○×台帳の電子地図化)などによって、今までは紙地図と紙台帳を同時に更新せねばならなかった作業が軽減され、それら情報の視覚化が可能となります。
これがGISの最も得意とする情報処理機能です。異なる地図同士の重ね合わせ表示にとどまらず、重なり合った相互の地図情報同士から位置・場所をキーとして条件検索が可能で、該当レコードの抽出や排除を行えます。この機能を空間演算機能といいます。空間演算機能によって様々な適地選定などの「場所の条件検索」が可能になります。
「場所の条件検索」は、既存の紙台帳ベースではなかなか難しく、紙地図同士を重ね合わせてこれを行うには大変な労力を必要とします。
このように革新的で、便利な情報構築・共有手段であるGISも、実際の運用に至るまではまだいくつかの問題点を孕んでいます。
既存の紙ベースであるデータを、共通のプラットフォームで電子データ化・再構築すること自体が膨大な作業を要します。既存の電子地図データがある場合でも利用するためのライセンス料が大変高価で、民間企業や個人レベルの研究者ではとても利用できなかったり、また既存データがない場合は紙地図情報の電子化という更にコスト高な方法を取らざるを得ません。
汎用性を持った「便利な」データとして整備するには、利用する側から見たニーズの掘り起こしと汎用的な利用環境を考慮したシステムを組み上げる必要があります。また更新頻度の多いデータについては、そうした更新作業が簡便に行えるしくみ作りが重要です。
また、GISの導入に伴い、紙ベースの地図/台帳という別々に管理していた情報がデジタル化によって一体化することで、今までとは仕事のやり方そのものが変化します。確かに情報管理が効率化することには変わりないのですが、GISの運用ノウハウを新たな仕事として覚えていかねばならないことが負担になることもあり得ます。こうした変化に耐えうる余裕とセンス・業務上での潜在的ニーズを導入の前段階で把握し、クリヤーにしておくことが重要ともいえます。また現状では運用そのものも外部委託するところも見受けられます。
また自治体などの場合、電子自治体化の推進の中で「全庁型GIS」として各部局共通のプラットフォーム構築をしておきながら、実際に運用できているのはごく一部の部局のみであったり、他部局が運用を検討する際に組織内部のタテ割り構造に阻まれ、あまり利用が進まないケースも見られます。また現状では、「電子自治体の実現」という意味合いは「電子申請」や「電子入札」等、個別のサービスをインターネット化するという、狭義の電子政府・電子自治体の実現に主眼が置かれており、このままでは、ITを核に日本や各自治体の競争力を向上させるというe-Japan計画への貢献に、電子政府・電子自治体の持つ潜在的有効性を十全に発揮できないことが危惧されています。
また情報の電子化によって新たに生じる問題としては、例えば自治体などでは個人情報の保護、そして情報公開の推進という相反する要求の中で、情報運用のルールづくりが必要となります。誰のための情報なのか(自治体内部の業務効率化のためか、市民との情報共有のためか、等)を明確に定義しておく必要があります。またデータの著作権保護・ライセンス管理の問題も指摘しておかねばなりません。
前述の通り、現在議論されている電子政府・電子自治体は、個々のシステムの構築に重点が置かれ、組織や個々のシステムを越えた情報連携にはあまり配慮されているとはいえません。またGISにおいても、既に導入が進んでいるところでの運用状況は、ほとんどが特定のシステム・特定の部局に閉じて運用されている、という問題点を指摘できます。
行政のもつ情報については、公開にあたっては個人情報の保護への最大限の配慮は必要でありますが、地理情報データに限らずこれら異種の(電子)情報を有機的に連携させることで得られる価値は非常に大きいといえます。また行政のもつ情報を「公共財」として捉えるなら、研究者・市民だけでなく民間企業にもより広く利用されうるよう「わかりやすさ」と「透明性」を確保することと共に、その利用を促すような汎用性の維持と、それらを利用する場合は安価なコスト負担で済むようなしくみづくりが望まれます。
また1995年のいわゆる合併特例法の改正を契機とした「平成の大合併」時代の到来による、広域的な基礎的自治体の確立の中では、こうした行政のもつ各種情報の統廃合がもたらされます。市町村合併を契機として、複数自治体間の同種情報の連携、また役所内での異種情報の連携、そして民間との情報連携体制を見直すための一つのツールとして、GISは有用であるといえます。これからの市町村合併は行政サービスの統廃合と同時に、各種行政データの統廃合(注)と地理情報データの整備が併せて行われることで、行政サービスの効率化と競争力の強化に繋がると確信します。
(注)
行政のもつ各種情報(統計類や各種実績データなど)も、現状ではまだ電子化されていないものも多くみられる。
例えば各種データの経年実績や、その推移を把握したいという時でも、各年次ごと・データ作成時等における統計の取り方・集計方法が違っていたり、行政界の合併・併合・分割があった時など、数値のまとめ方が一貫していなかったりすると、後に経年データとして全く使い物にならないということが起こりうる。いわんや市町村合併の際には行政サービスの統廃合とともに、自らが管理するデータ類の統廃合・電子化においては、あとで・いつでも・誰でも利用可能なように、情報整理・更新・維持管理の方針・体制作りが望まれる。
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